藤子不二雄A著「まんが道」より
  「なぜ日本人はこんなに漫画が好きなのか。外国人の目には異様にうつるらしい。なぜ外国の人はこれまで漫画を読まずにいたのだろうか?答えの一つには、彼らの国に手塚治虫がいなかったからだ。」(手塚治虫がこの世を去った翌日の平成元年2月10日の朝日新聞社説より)

鉄腕アトム、ブラックジャック、ジャングル大帝、リボンの騎士、火の鳥......御存じ数々の名作マンガを生み出した神様・手塚治虫。その作品は、日本人であればひとつやふたつは読んだことがあると思います。没後に作品がたくさん文庫化されたことにより、より身近に読めるようになりました。これはとても喜ばしいことですが、死の直前までの不人気ぶりから、死後一転して「神様」扱いされ、再評価されたことにはちょっと閉口しました。 とりあえず「手塚漫画は名作だ!」といった風潮や、文部省認定マンガの代名詞的な扱いやら・・・全然そんなことないって!!むしろかなりアナーキーですよ。手塚先生は。

ということで、エアーズがリスペクトするアーティスト第一弾はマンガの神様「手塚治虫(アナーキー編)」! 手塚先生に関しては、いろんな方がいろんな手法で評論されているので、あえて生い立ちやら歴史等はここでは書きません。気になる方は「手塚治虫物語1928-1959 オサムシ登場(朝日文庫)」「手塚治虫物語1960-1989 漫画の夢、アニメの夢(朝日文庫)」この2冊を読めばほぼバッチリです(マンガですから読みやすいですよ)。あわせて、藤子不二雄A先生による「まんが道(中央公論社)」も読めばさらに手塚先生の偉大さが分かります。この中での手塚先生はブッダのごとく後光さしてます。

手塚治虫に関して論ずるとそれこそ本一冊分になってしまうので、それはまたの機会にして、今回は今の感覚でオススメする【アナーキー】な手塚作品をピックアップしていきます。

   
  手塚治虫 実験アニメーション作品集 (DVD/パイオニアLDC)

個人的なことですが、ずっと待ってました!思い起こせば、小学5、6年生の頃、テレビの手塚治虫特集を見て、この実験アニメの一部が流れて以来、ずーーーーっと待ってました。確かビデオ化もされていなかったはずです。それがDVDで!夢のようです。
アニメのパイオニア的存在と言われている手塚先生ですが、ここに収録されている作品はすべて手塚先生が自腹を切って作られたもので、今の感覚で言えば、インディーズ作品。これらがあっての鉄腕アトムであり、ジャングル大帝なのです。1962年の処女作「ある街角の物語」から1988年の「自画像」まで全13作品完全版!長篇(39分)の「ある街角・・・」は今の目で見ると、いわゆるチェコアニメ的なオシャレ感覚もあるのですが、希代のストーリーテーラーである手塚先生はそこにもアナーキズムを盛り込み、ただのアニメにはしません。他にもストーリー的に素晴らしく驚きのあるものは、「人魚」「創世記」など。特に「創世記」はとても1968年に描かれたものとは思えないほど今の現代を描いています。映像的にはどれも面 白いのですが、なんといっても「ジャンピング」でしょう。主人公の目線でただジャンプをくり返すだけなのですが、それをCGではなく手描きのアニメでやってるところがなんとも言えず、不思議な感覚が味わえます。また有名な「おんぼろフィルム」ではディズニーを意識しつつ、ディズニーでは絶対出来ない手法により、物語が展開していきます。ビジュアル的にもかなり洗練されていて、素晴らしい!まさに一生モンのDVDです。


  人間ども集まれ!完全版 (実業之日本社)初出:1967〜1968年

タイトルからして凄いのですが、前述した手塚治虫のアナーキー性がパーフェクトに発揮された大傑作!この中で手塚は「無性人間」という男でも女でもない性の人間という架空の性別 を描き、その無性人間が大量生産され、人間のなぐさみものになり、奴隷になり、ついには反乱を起こしていくというストーリー。手塚治虫は単行本化される際に必ずと言っていいほど、描き足しなどをして、その作品を再編集するのですが、この作品に関しては結末が雑誌連載版と単行本では大きく異なり、この完全版ではその両方の結末が収録されています。これはハッピーエンド(雑誌版)とアンハッピーエンド(単行本版)という全く異なったラストで必見! また、この作品は一般的に知られている手塚漫画の画風ではないのですが、その60年代後半の空気を吸い込んだ画風は現在再評価高まる「トリス」でおなじみの柳原良平に通 じるものがあり、とてもカッコイイ!イラク戦争などが起こる今だからこそ、読まれて欲しい裏大名作!!


  奇子(上・下巻)(角川書店)

手塚治虫の「文部省認定」イメージをくつがえす驚愕のアナーキー作品!舞台は終戦直後の日本の田舎のとある立派なお屋敷の話。近親相姦のドロドロとした天外家の内状がドラマティックに描かれ、子供の奇子は自分の親に土蔵に閉じ込められ、長兄の嫁は長兄の父に夫公認で犯され・・・もう人間の悪がむき出しです。間違っても子供には見せられません。しかし、そのストーリー構成はさすが手塚先生、素晴らしすぎます!大人の方は是非御一読を。ちなみに装丁はあの信藤三雄率いる元祖渋谷系「コンテムポラリー・プロダクション」。


  鉄腕アトム「青騎士」〜「アトム復活」〜「メラニン一族」
(サンコミックス/19巻〜20巻)初出:1966年

この3話は連続していて「人間ども〜」のすぐ直前に描かれた作品。数あるアトムの話の中で名作の誉れ高い傑作シリーズ。鉄腕アトムの一般 的なイメージといえば、「正義の味方」や「優等生」「人間の味方」的なイメージが強いのですが、この作品が描かれた当時は、学園紛争まっただ中。手塚治虫も冒頭で述べていますが、当時劇画に押されアトムの人気が下がり、イメージ転換を図った苦肉の策として、アトムが人間の敵になるという異例の作品。これにより当時のアトムの人気はさらに下がったと言っていますが、アトムの大命題である「人間とロボット(白人と黒人などいろいろな解釈ができる)の共存」というテーマの本質をついた作品。名作!! ※現在、写真のサンコミックス版は絶版ですが、数あるアトムの単行本の中で一番装丁が素晴らしいので、こちらを掲載しました。


  MW(ムウ)全2巻 (小学館文庫)

浦沢直樹の大ヒット漫画「MONSTER」はこの作品をベースにしているような気もする。ただ、内容は「MONSTER」より過激。90年代に描かれた「MONSTER」より70年代に描かれた「MW」の方が過激という点がやはりすごい。この作品も前述の「人間ども〜」とリンクするバイセクシャルな男(MONSTERでいう所のヨハン)の物語。手塚治虫の作品にはよく「両性具有」が出てくるのですが(有名な「リボンの騎士」もそうですね)、その中でも群を抜いて素晴らしいミステリー傑作。